埋伏歯の矯正
医療は互恵の市場である社会の一部だが有償である、痛かったりもする。
そこに術患の思惑の違いを埋めるべく、インフォームドコンセントという概念があるが、これが成し難い。
日本では卑弥呼のころ、古代中国、魏の王、曹操には、神医の誉れたかい侍医、華佗(かだ)がいた。華佗 は、麻酔薬を使ったり、寄生虫の研究をしたり、治療のインフォームドコンセントの概念まで作った、まさに神医の名に恥じないヒトであった(とされる)。
くだんの曹操は、近年彼の陵墓から当時の頭痛の治療グッズである石枕が発見されたことでもわかるように、大変な頭痛もちである。
ある時、華佗は曹操の頭痛治療に、頭蓋骨に穴をあけてノーミンの一部を切り取ると言う、アバンギャルドな治療法を進言した。
この死ぬる思いのインフォームドコンセントの努力も、(無理もない気もするが)曹操の受け入れるところとはならず、機嫌をそこねたうえ、あろうことか華佗は殺されてしまう。
神医でさえこうなのだ。
ことほどさように聖人や善人の言葉は歪曲され、磔刑にされたり、毒人参のスープを飲まされたりするものらしい(イエスやソクラテスを思ってもみよ)、私が無事なのが不思議である。
されど、いかにインフォームドコンセントは成し難く、重要であることか。
以下は、ままならない矯正治療に臨んだ、某センセイの、血わき肉躍るインフォームドコンセントの記録である。
〇〇君(初診時8Y/♂)
御本人が矯正に乗り気ではなく、お母さんのご理解とフォローがなければ、私は治療をあきらめていたであろう。
T期治療で歯列スペースの整備をして、II期で非抜歯でまとめる予定だったが、治療中、右上犬歯はなんとか生えたものの、左上犬歯は、途中で萌出の向きをかえ、なんと90度お辞儀をするように、横向きに完全理伏してしまった。
原因不明と言うほかないが、起こったことはしかたがない。お母さんと相談して、完全理伏してしまった左上犬歯は、歯列に復帰させる事になった。
通常なら治療終了の段取りを考えるべき時期に、全く新しい治療目標を追加せざるを得なくなったのだ。
曹操ではないが、ドテに穴をあけなければならない。これだけでも嫌になるであろうに、残張ってくれたのは有難い事であった。 唇測に埋伏していることがわかったので、そこから外科的開窓している。 |
牽引用に自作した舌側器具。 器具右上の誘導線用アームに、牽引中の方向コントロールのため、ループがふたつ付いている。 |
閉鎖誘導法の状況 | ||
器具のアームから細い誘導線1本で、隣在菌との干渉など案じながら、ハグキごしに埋伏犬歯を牽引するのである。 トム・クルーズのIMFのBGMがマッ手する、スリリングなものとなる。 |
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