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スピード矯正

 年に数件、スピード矯正をやっているかとの問い合わせが来る。 私の治療のノロマぶりに対するヒニクではなく、諸般の事情で、矯正の治療期間を少しでも短くしたいと言うお気持ちが、電話口の向こうから1オクターブも音程の上がったお声で伝わってくる。
 一般の方が、よくこんな知識を持たれたものだと感心するが、私は、いわゆるスピード矯正はやっていない。
 『いわゆるスピード矯正はしていませんが、普通の矯正でも工夫次第で、早く治療出来ますよ』などと言うのだが、実際、矯正のハリガネをSelf Ligation式のブレースと併用したり、何段階かに分けて行なう治療手順を同時進行させるなどで、平均的に3年かかるモノを2年程度に、2年を1年くらいには短縮可能な場合がある。

(Self Ligation式のブレースのひとつクリアティSL。“私的には”もう少しメーカーに安く売ってホシイ。)

 ただし、これは一般的とは言いかねる。矯正の教科書では、治療手順毎に目標達成を確認して次に進む安全運転を教えているのだが、治療手順の同時進行と言うのは、いわばA級ライセンス保持者の技術である。(ゴールド免許の私は、同時後退治療なら自信がある。)
 これに対し電話で問い合わせのあった、“スピード矯正”も一般的とは言いかねる、Corticotomy(コルチコトミー)という外科処置を施した上で、ハリガネを応用する矯正治療を体系づけた一部の専門家が、自分たちの技術につけた呼称である。

 くだんの外科処置は、ハグキを切りめくった後で、もしくは直接、ハグキごと下の歯槽骨表面の硬い部分を切除すると言うモノであるが、これにより“歯”の動く速度が格段に速くなるとされ、“スピード矯正”なる名前でも知られるが、矯正治療にはそれ以外の治療要件が沢山あり、大抵のケースでは、治療そのものが早く終わるわけではない。
 もちろん諸々の条件が合えば、文字通りのスピード矯正になる(フツー3年かかるのが5ヶ月で終わったりする)らしいが、外科のダメージは数年残るとするムキもあり、近年のMinimam Intervention (最少侵襲性) の治療概念 からは逸脱している。(気がする)

 アリストテレスの中庸の思想もある、物事すべて、やり過ぎはよくない (気がする) が、私も歯医者の端くれである、現況のスピード矯正の実態が知りたい気持ちは抑え難く、某日、スピード矯正のコースに参加して来た。
 私が参加したのは、わずか2日間のコースであり、得られた知識も、あくまでベーシックなものである。
 すべてを知りぬいたわけでもなく、乗り越えるべき知識技術のハードルは決して低いものではないコトを確認したが、老犬芸を覚えずとでも言おうか。
 コースの終了にあたり、私の出来の悪さにあきれたらしい講師の先生から、『お疲れ様です』との言葉を賜わり、私は、税金を払い終わったような気持ちになった。

注)You Tube等に“Orthodontic Corticotomy”などのKey wordで、 参考になる動画が多数アップされているにつき、興味のある方は参照されたい。

スピード矯正コース会場の、気品に満ちた謎の人物。


【Corticotomy(コルチコトミー)手術】

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