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診療の紹介

イレバのはなし-03

 すれ違い咬合

思い出の大部分は、患者さんが占める。

遠い昔の、患者さんとの何気ないやりとりを、昨日の事のように、鮮やかに脳裏に浮かべる事ができたりする。

○○さんの事も、生涯忘れる事はないであろう。医大の教授をしている、弟の患者さんでいらっしゃった関係で、私におかかりになったのだが、大阪からいらした、大変、社会的地位のある方である。

夢、揶揄するつもりはないが、“人間は適応で生きている”という言葉そのままの、お口の状態であった。

“すれ違い咬合”という難症例である。
要するに、上顎の残存歯列が、下顎の残存歯列をスッポリ取り囲んでおり、全く、上下が噛みあってないのである。
(勿論、シソ−ノ−ロ−やら、顎位の問題やら、その他難問テンコ盛りでもある)

当然、イレバ作りには、結構なスキルがいる。
紆余曲折の末、“テレスコ−プ・システム”という手法を用いたのだが、努力には、なぜか妨害が多い。(努力しないほうがスム‐スに運ぶ気さえする)
(私にしては)心血を注いだ製作途上で、いきなり病気になって入院するハメになってしまったのだ。
入院中も診療室で仕事をしていられたのは、入院したのが、私ではなく、長年、唇歯輔車の関係である、技工士さんだったからだが、心優しい彼は、いつも“センセイのお役にたてれば”と言ってくれたものだ。

私の日ごろの悪行(メシの食いすぎとか、家内に怒られない日はない)の報いを案じ、天罰とかの身代わりを、かってでたのなら殊勝かつ有難いが、肝心の義歯が完成しないのでは、○○さんまで天罰のとばっちりを受ける事になる。

幸い、他の優秀な技工士さんと組む事で、ともかく義歯は完成した。

○○さんの、メンテナンスの順調な経過を願っているが、入院された技工士さんの、速やかなる全快も願わずにはおれない。(山ほど身代わりの、あっいや、仕事の需要があるので)

before
症例画像
○○さんの、術前のお口のなか右 同正面 同左
国内外で頻発する大地震が及ぼす影響を、考えざるを得ない。
 
症例画像
全顎におよぶ中等度から、高度の歯槽膿漏、ムシ歯や歯の欠損状態がわかる。
 
症例画像
上下残存歯の、すれ違い状態がわかる。
右下右上の一番奥だけ、アゴのズラし加減で辛うじて咬合できる。
症例画像
after
症例画像
術後、義歯装着時右 同正面 同左
咬合を、大幅に挙上しなければならない事、顎位の不安定さ、残存歯との兼ね合い等から、
インプラントの採用を見送り、可撤式義歯によるオーソドックスな補綴とした。
 
症例画像
テレスコ−プ・システム内冠装着状態。
歯槽膿漏、およびC/Rレシオ(歯冠歯根長比)等の改善がわかる。
 
症例画像 症例画像
 
症例画像症例画像
○○さんは、初診から一貫して、病識をもって受診された方である。

治療期間は約10ヶ月であったが、8ヶ月を歯槽膿漏やムシ歯の改善に、残り2ヶ月がイレバ作りにあてられた。(フルマウスなら、典型的なパタ−ンであろう)

この手のイレバ作りは、私自身、年甲斐もなく精神の高揚を覚えるし、チャンスをいただいた○○さんには、感謝している。


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