睡眠時無呼吸症候群
―眠れぬ森の美男美女のハナシ―
某日、『スイミンジナントカの治療はできますか?』との電話が、かかって来た。
“スイゼン寺清子”が治療を求めて来たのではない、歴とした一部上場企業産業医の専門的質問であった。
つまり“睡眠時無呼吸症候群”の治療取り扱いの有無を尋ねられたのだが、かれこれ7〜8年前、山陽新幹線の運転士の居眠りの原因として、有名になったビョ−キでもある。
睡眠中に無呼吸を繰り返す事が原因で、十分睡眠がとれない睡眠障害(不眠)を発症するのだが、日本中に、数百万人の患者さんがいらっしゃるとされる。
実は、このビョ−キに開業歯医者がしてあげられる治療は、ビョ−キ全体のごく一部でしかない。
“症候群”というだけあって、睡眠時無呼吸の原因は多岐にわたるからだが、神経、ホルモン、免疫性など無数のバリエーションがある上に、結果としての不眠の他、心筋梗塞や脳卒中といった、保険会社の担当の胃が痛くなりそうなビョ−キとも相関している、結構シリアスなものなのだ。
これらのどれひとつとして、患者さんの歯を削ったり、矯正のハリガネを巻きつけて、治りそうなものは無いような気がする。
結局、できる事は、気道閉塞性といって、仰臥時、のどが舌の沈下で詰まるタイプの睡眠時無呼吸に対し、“スリ−プスプリント”と称する、口腔内装置を患者さんに作ってあげる事くらいである。
これを就寝時、装着する事により呼吸はラクになる、ついで睡眠障害の解消に結びつく(事もある)、というものだが、これとて程度によっては無力であり、うまくいっても対症療法にすぎないし、使用をやめれば元の木阿弥だし、そもそも不眠の原因の一部を取り除くだけである、いずれにしろ効果を安請け合いできるものではない。
このような背景があり、ウロンな回答は、私の社会的評価がさらに下がるのみならず、実際に迷惑を被る患者さんが出ないとも限らぬ。
適切かつ、無難に、と考えたあげく (おかけになった電話番号は…などは、幸い、思いつかなかった)、『歯科の口腔内装置が有効という診断さえしてもらえるのでしたら、装置の作製はできます』との回答をして差し上げた。
実際、このビョ−キの歯科治療は、一般医科とのコラボレ−ションの中にのみ、存在が許される。
平成16年より歯科における健康保険の取り扱いが可能となったが、専門医科医療機関からの診療情報の提供、治療依頼がなければ不可という、ケシカラヌとは言えぬ、もっともな条件が、現実についている。
くだんの産業医の先生は、異端審問官やウチの家内とも違っていた。私の拙い説明にも、すぐに納得していただけたご様子であり、なによりほっとしている。
(その後、先生から連絡はないが、案外、彼は、自分の不眠の相談をしたかったのではないかと、小人閑居式の、支離滅裂な空想にふけっているのだ)
眠れない青森出身の美男、○○さん | |
こういうアゴのヒトが、 “閉塞性”睡眠時無呼吸症候群に多い。 |
軽度閉塞性睡眠時無呼吸症候群の頭部X線規格写真である。狭窄した気道、長く、肥大した軟口蓋、低位舌、下垂した舌骨・・・ |
今回作製したスリ−プスプリント。これを、就寝時、お口に装着していただくのが、歯科における、睡眠時無呼吸症候群治療のミソ。 |
スリ−プ・スプリント装着時。 | |
ゆっくり時間をかけて、装着に慣れてもらっている。確かに就寝時の呼吸がラクになり、効果が認められる、とのコメントを得た。スリ−プ・スプリント装着により、わずかにNeck profileが改善している。 | スリ−プ・スプリント装着時、気道が拡大しているのが明瞭に見てとれる。 |
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