 
 
成長期の上顎前突
    
プロメテウスは今も鎖で縛られているらしいが、矯正のハリガネの縛りつけも数年とは言え、人間にはやはり長い。
      これをもっと短く、効率的にしてあげられないかと思う。
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| 初診当時9歳の、骨格性上顎前突の○○君。重篤なアレルギー性鼻炎、口呼吸、その結果としての歯肉炎など、血沸き肉躍る状況でもある。耳鼻科との通院もお願いし、あれやこれやの矯正的対応の結果、とりあえず右上写真(14歳時)の状況にこぎついた。 | 
|  このヒトを抜きに上顎前突は語れない。 |  日本人出っ歯の特徴がでている。 ( 水木しげるサンのマンガ) | 
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  上顎前突とは出っ歯の事だが、これはアメリカが本場である。(反対咬合は日本が本家本元なのだ)
上顎前突とは出っ歯の事だが、これはアメリカが本場である。(反対咬合は日本が本家本元なのだ)
      その成り立ちも人種的な違いが濃厚に反映されており、アメリカの出っ歯は骨格的に上顎そのものが出っ張っている事が多いが、日本人の場合、奥ゆかしく、下顎の引っ込みから出っ歯となっているのが大部分である。
      この表裏一体は治療にも当てはまる、上顎前突の治療は、上顎を引っ込めるか、下顎を伸ばすかであるが、日本人のソレは、下顎が引っ込んでいるのだから、下顎を伸ばす事ができれば好都合である。 
 これにつき、成長期にあっては、下顎の成長促進は治療法として有用であり、
      例えば成長の盛んな時期にヘッドギヤなど用い、上顎の成長抑制から、下顎(下顎枝)がうまく伸びてくれる事を期待するのである。
 これにつき、成長期にあっては、下顎の成長促進は治療法として有用であり、
      例えば成長の盛んな時期にヘッドギヤなど用い、上顎の成長抑制から、下顎(下顎枝)がうまく伸びてくれる事を期待するのである。
      これを上顎前突矯正のT期治療と称する。
      【Bionatorで治療した成長期の上顎前突】 
       
      
    
| before | |
| 15Y/♂Maxillary protrusion with severe deep overbite | |
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| 〇〇君は、咬筋の緊張が強いため、上下顎骨の垂直成長が阻害された症例である。 こういう過蓋咬合は、いわゆるハリガネ矯正では案外難しい。(イロイロあって、私はインプラントは好きではない) | |
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| 自分で着脱できる、Bionator装置を使用する事になった。出来る限りFull timeでの使用を長期間(1年くらい!)してもらうため、センセイと患者さんご本人との固い信頼関係が重要なファクターとなる。 | |
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| after | |
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| Bionator装置の6ヶ月の使用後。Over  biteは改善し、大臼歯はV級の咬合関係となった。やや成長のピ−クをはずれたスタートだったが、装置の使用協力が申し分なく、十分、治療の難易度を下げる事ができた。 さらに数ヶ月、この状態の安定を確認し、ワイヤーによる比較的簡単な仕上げを行う予定。 | |
| before | 
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| after | 
| ここからワイヤーで簡単にフィニッシュが可能 | 
      【Bionatorの威力】
 
 
      Bionatorは、大体こんな感じの治療効果が得られる。この患者さんは11歳の女性だが、口腔周囲の筋肉が異常な緊張を呈しており、普通のハリガネ治療では治らないと判断した。6ヶ月のBionatorの使用で成長が引き出され、下顎はもう後ろには戻らない段階である。あと半年ほど頑張ってもらい、ハリガネ治療で仕上げにする予定。
    
【手根骨アナリシス】
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| 矯正における手根骨アナリシスのレントゲン。成長のヨミのツールのひとつとして用いる。 いろいろノウハウはあるが、やはり最後はセンセイの直感が重要なのだ。 | |
      とは言え、成長のヨミは難しく、百発百中的に、これが奏功すれば目出度いが、そう甘くないのは言うまでもない。
      (買えば下がり、売れば上がる株価を思っても見よ、下顎が伸びるかどうかの、コインの裏表的判断が難しいのも宜なるかな。)
矯正治療の成長予測において依って立つモノは、あくまでも平均的成長にすぎない、これから外れて行く成長パターンは少なくなく、さらに治療に対する反応も、都合の良いモノばかりではない、これを完璧に洞察できるセンセイは、預言者もしくは超人であろう。
      このように明確に効果が予期され難く、賛否が分かれる早期治療だが、私は、それなりの意味があると思い、実施する事が多い。
      あまりガチャ歯のない、非抜歯でまとめられそうなケースを見繕い、上下の6歳臼歯の前後的関係が正常になるのを目標にT期治療をやるのだが、いつもスンナリいくとは限らない。
      数ヶ月の治療効果のソロバン勘定が思わしくなければ、いさぎよく観察に切り替えて、患者さんの大事な子供時代の思い出を、ヘッドギヤ一色にしてしまわない配慮が必要である。
 逆に、中程度以上のガチャ歯の子供さんなど、将来、抜歯が必要と思われる場合、早期治療(T期治療)の時期はパスするのが、無難だったりする。
      同様に、呼吸等にモンダイのあるケースも、いわゆる治療反応の見極めの難しさから、早期の治療を飛ばし、永久歯が生え終わった頃、U期治療でまとめて、抜歯矯正での対応としたほうがいい気がする。
      (私は、宝クジはまず当たらないが、ビンボークジなら自由自在に引き当てる超能力を有するため、サイコロを振る時は、悪いメに賭ける習慣がある。)
      こんな中にも、ご両親の希望やら、子供さんのデモやストライキやらが、試練の嵐として私に降り注ぐわけで、時に、シナイ半島を彷徨うユダヤの民を率いるモーゼみたいな心境になったりする。
      これが掛け値なしの、成長期矯正臨床の現実である。 
| Maxillary Protrusion(10Y/♀) Angle Class U case in which the mandible was rotated posteriorly. | |
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| High pull HG was used of treatment for the purpose of controlling maxilla growth and releasing locked mandible. | |
| before | afterの直前 | 
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| 10歳の女児、骨格性の上顎前突、閉唇時のオトガイのウメボシ、弄唇癖、習慣性と思われる口呼吸、舌癖あり。 | 治療タイミングのヨミが奏功し、T期治療から、どんどん永久歯に交換して行き、そのままU期治療へ移行したようなところがある。 | 
| before | 
| Class U div.1with Tongue Thrusting Habit and Lip Sucking(11Y/♂) | 
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| 総合的に、下顎の成長促進でいけるとの心証を得たが、習癖のカットに不安を覚えた記憶がある。 | 
|  | 
| after | 
| 13Y/良好な顔貌から、下顎の成長促進と、そのChin controlがうまくいった事がわかる。 | 
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| 大臼歯と犬歯のT級が達成されたが、舌癖および、Symphysisの形態を考慮し、L−1 to Apogは、やや甘くしている。 | 
| before | 
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| T期治療を飛ばして、いきなりU期治療の時期に治療開始となったが、十分、成長は残っている。習癖はともかく、骨格的には前に伸びそうな下アゴであった。 | 
|  | 
| after | 
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| 3ヶ月〜くらい様子を診て、当方はますますアゴが伸びそうな印象をもったが、ご両親は不安を覚えられたようである。(こう言うパターンでは、懸命に乗組員を宥める、コロンブスもかくやとなる。) 治療開始後約1年半で目出度く、ワイヤー撤去の運びとなった。 | 
| before | |
| ClassUdiv.1with Severe Dysfunctional lips/Deep Over Bite(10Y/♂) | |
|  | |
| Brachy facialの骨格性上顎前突。無力なフンイキの上唇、下唇下部の深い溝を持つタイトな下唇、オトガイ付近の筋肉(Buccinator lower band)の緊張が異常に強く、その付近の歯槽骨は後方に陥 凹しているほどである。さらに下唇は上下前歯に陥入して、前歯の著しい前後的ギャップ形成の原因となっている。 | |
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| after 14Y | |
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| ◯◯くんのガイコツ。下唇下部の軟組織の過緊張がSymphysisを撓めるほど強く、下顎を、後方に押し込めているのがわかる。 | |
| 忘れえぬ大苦戦であった。曲りなりにも臼歯部の咬合関係は改善しジェットも取れたが、オトガイ付近の筋肉の緊張がとれないなど、当方が不安になるファクターが山ほどある中、保定をまじめにするとの“固い約束”(“ここだけのハナシ”と同様、何故か反対の結果となる事が多い)と、強い希望によりワイヤーを撤去した。後日談につき、機会があればコラムにまとめたいと思う。 | |
| before | 
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| 初診から1年後のU期治療直前の状況。ここまでの1年間は、 ◯◯君のミスアポとストライキと、その説得にほぼ全時間が費やされた。CLUの大臼歯関係、V字型に狭窄した上顎歯列、深い前歯被蓋など、T期治療の時期は、ほとんど成果を得られなかったのがわかる。 | 
|  | 
| after | 
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| 結局、全期間を通じて、ほとんど治療上の協力は得られなかった。やむなく第二大臼歯を抜歯し、顎内装置のみで前方歯群を順繰りに後方に移動し、親知らずを歯列に誘導、加えてPt.Aの後退を図るなどの、協力が全く必要ないメカニクスの工夫をした。 | 
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| 左のレントゲンはU期治療の直前、右のレントゲンは、U期治療において、抜歯した第二大臼歯の代わりに、智歯を歯列に取り込んだ状態。これにより、見かけ、非抜歯での対応が可能となる。 | 
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