根管治療は地味な治療だが、歯医者の技量と良心を映す鏡だと思ってよい。以下の2症例は、私の日常の臨床の中から適当にサンプリングしたものだが、無機質なレントゲン写真のなかに、私の歯医者としての意気地がつまっているのだ。
下顎大臼歯の抜髄という処置にともなう根管治療。3回目のアポで、良好な根管形成と根管充填がなされた。まあまあ上出来である。
この患者さんの根管形成は大変の一言につきた。なにしろ全顎の歯牙の根管の狭窄が尋常ではなく、1本1本の形成が通常の3倍はかかった。これでも保険点数は変わらないのですよ、皆さん!
というわけで、歯の神経をとった後の根管治療の実例を紹介したが、これで万事まるく収まるほど物事は単純ではない。
以下は、皆さんが雑学として知っておいて損はない小話である。
世界の七不思議ほどではないが、歯医者の世界にも(私が歯医者をしている事など)不思議は多い。
最大の不思議のひとつは、歯医者の基本技術である歯痛治療に関するものである。(どうしてどうして奥が深いのだ)
実は、歯医者が対応できるのは、主としてムシ歯と歯槽膿漏による歯痛であり、これ以外の“歯痛としか思えない感覚”を引き起こす原因は、星の数ほどある。
幸い、症例の頻度としては極めて少ないため、歯医者は歯医者でいられるようなところがある。(神経を抜いたところで、歯を抜いてさえ!ある種の歯痛は改善しないのだ)
さんぬる時、常に学究を怠らない精神からではなく、要するにやむなく“求心路遮断性疼痛症候群”など、火星語としか思えない語句が満載の、痛みに関する一般医学書など購入した事がある。
不眠不休の猛勉強を数分間実施し、あと50年ほどで理解のメドがつくところまではいったが、何分、歯医者とは畑が違いすぎた。
あまりといえば基本的知識が不足しており、白痴と思われるのが嫌さに、有識者への質問も差し控える、奥ゆかしさだけは身についた。
わからない事だらけの徒然に、昔、以下のようなコラムを書いた事がある。
“歯医者にかかっているのに歯痛が治らないとボヤくヒトが、横丁に一人はいる歯医者評論家とかの井戸端会議の結果、ヤブではないかと転医を勧められ、ピタリと治った。治療法は全く同等であったが、結果がまるで違うところから、やはり名医は違うと皆で英断を称えあったはいいが、同様の状況で、くだんの名医からヤブ先生のところへ転医する患者さんがいた”
という内容であった。
この手の歯痛は、痛んだり治ったりの発作的周期性がある場合があり、星の巡り会わせがよいと、案外、名医になれたりする。(現実は甘くないが)
つまり、もともと歯医者の扱える歯痛ではなかった、というのがハナシのミソなのだが、日常の診療でも、こういう患者さんに遭遇する事はある。
ここ10年、専門医が充実してきており、紹介という形でかなりスム-スに対応できるようになったが、一般の患者さんへの啓蒙という点ではまだまだの感がある。
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